白ワインを比較する。

第117回
以前、こんなご質問をいただきました。
紹介されていた「10種のぶどうでわかるワイン」(石田博著)を読みましたが、シュナン・ブランが入っている事にビックリしました。一応押さえておいた方が良いでしょうか?今の時点で手を広げ過ぎても、とも思っているのですが。
無視しましょう。 シュナン・ブランはフランス・ロワール地方において真価を発揮し、驚くほど長期熟成に耐えるワイン、また貴腐ブドウから素晴らしい甘口ワインが造られています。また、近年、南アフリカにおいてもすばらいシュナン・ブランがあります。
香りや味わいも他のブドウにはない個性を持っており、試験的に狙われてもおかしくありません。さらに、酸がしっかりしており、暑い地方で造られても酸が残る為、アジア圏などでも重宝されております。→コンクールのテイスティングにも出題されたインドのスーラ・ヴィンヤードのシュナン・ブランなど。
決して無視できる存在ではないとも言えるのですが、正直どうなるかはわかりません。近い将来出題される日が来ると思います。しかし、今年のこの講座では無視して進めることにします。一度も出題されたことのない品種に割く時間的余裕は無いという判断です。→90年代に一度出題されたことがあったという話も・・・。
次に新規出題があるとすれば、オーストリアのグリューナー・フェルトリーナーの方が可能性が高いと考えています。オーストリアを代表するブドウ品種で、近年日本の市場でも一般的です。でも、こちらも同じように無視します。まだ出題されておらず、ソムリエ試験的に定番になっていないからです。
ご質問されたご本人がおっしゃっている通り、手を広げすぎることがマイナスです。シュナン・ブランに時間を取られるなら、リースリングやソーヴィニヨン・ブランをしっかり経験し対策することが、合格への近道です。
主要ブドウ品種はもうおおよそ大丈夫!、それぞれの香り・味わいがスラッとイメージできるくらいものすご~く自信があります!、という方でしたら、これらのブドウまで経験しておく方が良いかも知れません。
しかし、ほとんどの皆さんはシュナン・ブランにかける時間は無いというのが現実でしょう。これから二次試験当日まで、リースリングですら何回テイスティングできるかを考えてみてください。まず何よりも頻出主要ブドウ品種の特徴を捉えること・感じることが最優先です。
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白ワインを比較する。
前回、過去に出題された主要白ブドウ品種について、私なりの感じ方をお伝えしました。今回はそれらのワインを比較した時にどうなのかということを見ていきます。
目次
1. 外観 見比べてわかること。
外観である程度イメージを持つことです。ワインの全体像を掴む入り口として外観は最も大切です。そのためにもいろいろなワインを経験して、「濃い」「淡い」「黄色っぽい」「緑がかっている」「トロっとしている」「サラサラしている」などの基準を持つ必要があります。
これは外観に限った話ではありません。酸が強いのか、渋みをどの程度感じるのか、アルコールのボリュームはどのレベルなのか。強弱を判断しなくてはならないのですから、その基準となるものが必要になるということです。
→今は協会のコメントを意識するのではなく、ご自身の中に基準(ものさし)を作りましょう。この基準がなければ何も判断できません。その為にテイスティングして書き留めてください。以前お伝えしたアルコールの捉え方などもその一つです。
さて、白ワインは一般的に新しいものほど緑が強く、年月が経つにつれて緑が減り徐々に色が濃くなり褐色を帯びていきます。
→ワインは基本酸化熟成なので、皮を剥いたリンゴをほうっておくと酸化して茶色くなるのと同様に、ワインも褐色になります。
外観の緑の印象はフレッシュなワインの特徴でもあり、ブドウ品種による特徴でもあります。
・色と濃さ
白ワインの場合、「色の濃さ」と「黄色と緑の色の強弱」に注目します。
ミュスカデ→甲州→ソーヴィニヨン・ブラン→リースリング/シャルドネ→ゲヴュルツトラミネール
左から右の順で色が濃くなるように思います。同様に緑っぽさもソーヴィニヨンを除くとほぼ同じ順番で、左から緑→黄色の順に並んでいます。
→ミュスカデは黄色が少ない感じ、甲州はややくすんだ印象で果皮の赤っぽさ(茶色)を感じるものもあります。
もちろん、絶対的な順番ではありません。それでもなんとなくこの順をイメージできるようになると良いでしょう。
・粘性
いかにトロりとしているかということ。こちらも緑っぽいブドウ品種はサラサラしていることが多く、黄色が強くなるにしたがって粘性も増します。ただ、粘性はアルコールに影響されるので、暖かい地域のワインの特徴でもあります。
・まとめ
同じブドウ品種でも暖かい地域で栽培されたブドウから造られたワインは黄色っぽく濃くなります。収穫時の糖度も上がり、アルコール分も高くなりますから粘性も強くなります。
また、樽を使うということはそれなりの期間熟成させることにもなりますから、フレッシュなワインの特徴である緑っぽさが少なくなり、樽からの影響と酸化熟成により色が濃くなります。
2. 香りを比較する。
ワインは、実は数百以上の香りが絡み合っていると言われています。しかし、私達人間はそこまで感じることができません。
試験対策として現段階で大切なことはブドウ品種ごとに特徴的な香りを一つ、できれば二つ理解することです。ご自身の得意な香りを見つけて欲しいほしいと思っています。
テイスティングコメントでは「カリン、白い花、バニラ、白コショウ…」とたくさん並んでいますが、このようなコメントは後まわしです。
→皆さんが感じる限りの香りを書き出すことで、そのブドウ品種の系統が見つかります。一つ二つしか感じなくてもよいというわけではありません。いろいろ感じる中で得意な香り、感じやすいニュアンスを一つか二つ自分のものにするということです。
時間はかかりますが自分なりに、例えばリースリングといえばこの香り、このニュアンスという香り・ポイントを見つけてください。残念ながらすべてのリースリングに当てはまることはないですが、それなりの系統を知ることが大切です。これは味わいにも当てはまります。
・香りから大まかに三つのタイプにわけてみる。
試験対策としては白ワインの香りを「スッキリ、爽やか柑橘類の香り」の溌剌タイプと「白い花や桃のような甘い果物の香り」の華やかタイプ、「樽のニュアンス」を感じたらシャルドネの三つにわけて理解しましょう。→ソムリエ協会はスッキリ爽やかなんてコメントを求めてきませんが…。
「スッキリ、爽やか柑橘類の香り」の溌剌タイプ
香りの主体が柑橘系と判断できるタイプです。レモンやライムなどの爽やかな香りが半分以上を占めているというイメージ。
スッキリ軽めなミュスカデ
すこし穏やかな甲州
ミュスカデは全ての構成要素が少なく、ただその中でもスッキリしたミネラル感、柑橘系の酸のニュアンスだけが際立っているという感じです。甲州も似たタイプなのですが、なんとなく“ぼんやり”しています。
そして他にも特徴的な要素があるソーヴィニヨン・ブラン
試験的には難しいですが次の2つも。
シャルドネ(シャブリ系)
(このタイプの)リースリング
ソーヴィニヨン・ブランは他の要素もしっかりしているため、スッキリした感じだけが突出しているわけではないということを理解してください。
「白い花や桃のような甘い果物の香り」の華やかタイプ
フローラル系あるいは果実の甘い香りが主体であると判断できるタイプ。このタイプからも柑橘の香りを感じますが、あくまで主体はお花・甘い果実の香りであるということ。
お花系の代表格のリースリング
すべての要素をより強く感じるゲヴュルツトラミネール
白色や黄色の花、カリン、モモ、ライチなどに代表される甘くて華やかなニュアンス、フローラルで柔らかい香りが主体です。ここに樽のニュアンスはありません。リースリングとゲヴュルツトラミネールはブドウが持つ特徴がそのままワインに表れると言われています。
「樽のニュアンス」を感じたらシャルドネ
正直、難しいので樽=シャルドネとしてとらえましょう。他の主要ブドウ品種からは基本的に樽を感じることはありません。←もちろん、ソムリエ試験対策としてです。ボルドーの樽ありや、珍しいNZの樽ありが出題されましたが、例外と考えて下さい。
シャルドネ自体にはそれほど特徴はなく、樽由来のナッツやバターなどの香りを感じることが多いです。またマロラクティック発酵によって香りが丸くまろやかになっている可能性が高いと言えます。→酸っぱいリンゴ酸がまろやかな酸味の乳酸に変化するためです。
3. 味わいの違い、強弱を感じる。
外観、香りを分析しました。この段階である程度イメージが形になると理想的です。→注意!いくらイメージ通りでも、決めつけて、視野を狭めてはいけません!
そして、口に含み確認という流れがベストです。外観と香りで感じたイメージがすんなり味わいにつながればそのままコメントに進めるわけです。もし違ったりすると、けっこうあせってしまいます。しかし、ワインってそんなに簡単に割りきれるほど、単純ではありませんからイメージ通りに行かないことの方が多いと考えましょう。→残念ながら、なんとも微妙でどちらとも判断できないことが多い・・・。
白ワインの味わいにおける一番の特徴は酸/酸味です。ワインは酸のお酒といっても過言ではなく、古今東西、これほどまでに酸に特化した酒類はありません。ですから白ワインの味わいを計る基準として酸と他の要素のバランスを知ることが非常に重要です。
・酸の感じ方
「酸が溌剌としてフレッシュなタイプ」なのか、「酸は滑らかでトロりとした口当たりのタイプ」なのか?
口に含んでどう感じるかです。酸っぱい、丸い、甘い、フレッシュ感、滑らか、重い、薄いなど…。ここも香りと同様に二つにわけてみます。
「酸が溌剌としてフレッシュなタイプ」
<わかりやすい ←→ 穏やか>
ミュスカデ→ソーヴィニヨン・ブラン→シャルドネ(シャブリ系)
甲州は例外
フレッシュさが穏やかになるにつれて、味わいも濃く、強く感じるようになりますが、甲州は例外です。甲州は全く濃いタイプに分類されませんが、酸がフレッシュというわけでもありません。なんとなく中庸でやっぱりシンプルです。
「酸は滑らかでトロりとした口当たりのタイプ」
酸になめらかさを感じるリースリング
よりトロリと感じるゲヴュルツトラミネール/(シャルドネ)
このトロりとした感覚がどこから来ているのか、ブドウ品種によるものなのか、アルコールのボリュームに由来するものなのか、そこを判断する必要があるのですが、ひとまずこのように並べることができます。このボディーに隠されている酸をどのように感じるのかが一つのポイントです。
最初はフランスと新世界のシャルドネを比べてみるとよいでしょう。ワインによるのですが新世界のシャルドネのほうがトロりとした感覚を感じるはずです。残念ながらシャルドネはどうにでも転ぶので、アメリカのものなどはゲヴュルツ以上にトロリと丸い印象のワインもあります。その場合、アメリカンオークの印象が前面に出ている可能性が高いです。参考までに。→アメリカンオークはフレンチオークよりも樽のニュアンスが強くなります。
・アルコールのボリューム
味わいでもう一つ大切なポイントが、アルコールのボリュームです。以前にもお伝えしたように、単純に暖かい地域・国で造られたワインは太陽の恩恵を受けるため糖度が上がり、アルコールのボリュームをより感じるようになります。その強弱からまずは冷涼な産地なのか、温暖な産地なのかを判断できるようになってください。→厳密にいうと、畑の高度や角度も大きな要因になるのですが、そこまで考えてられませんから、試験が終わるまでは単純に理解しましょう。
アルコールはワインに粘性や滑らかさ、厚み、熱感をもたらします。ウィスキーをストレートで飲むと強いですよね。この強さはアルコールです。ですから、アルコールのボリュームのあるワインは力強いワインと言えます。→アルコールのニュアンスは慣れないとなかなか難しいかもしれません。アルコール度数当てゲーム、やってますか?
国別アルコールのボリューム感の強弱
弱→強
ドイツ→フランス→NZ / 日本→オーストラリア→アメリカ
これも一概に言えませんが、こんな感じでしょうか。酸はおおよそ反対になる感じです。
→最近は温暖化で冷涼な産地でもアルコール度数が上がりました。
4. そして判断する。
これまでの情報をもとにタイプを確定し、その先にあるブドウ品種を探ります。外観、香り、味わいの全てが自分のイメージにピッタリということは稀です。消去法で考えることもあります。
【例題】
外観は輝きのあるやや緑色を帯びた淡い黄色、粘性はそれほどでもない。
香りはフレッシュな柑橘類が主体であるが、奥に熟した果実の甘い香りも見え隠れしている。ミネラルのニュアンスがしっかりしており、フレッシュハーブとまではいかないが全体的に爽やかな印象。
味わいもフレッシュで、酸と果実味のバランスがよく、ボディも比較的しっかりしている。樽のニュアンスはそれほど感じないが、良い年のワインとみえてアルコールのボリュームも感じられるが、強いというほどでもない。
文字情報だけですが、皆さんはこの雰囲気からどのブドウ品種を想像しますか?
緑がかった淡い色調とそれほどでもない粘性から、冷涼な地域であろうと予想します。香りのニュアンスが色調のイメージに通じることを確認し、フレッシュな柑橘類の香りというところで、今日でいうところの「白い花や桃のような甘い果物の香り」系の品種ではないと考えます。そして香りのボリュームからミュスカデ/甲州も外れます。
こうして残るのはシャルドネかソーヴィニヨン・ブランです。
私はまずフランスのシャルドネをイメージしました。ただ、そう考えるには樽のニュアンス、粘性がないのが気になります。さわやかでフレッシュ、ソーヴィニヨン・ブランも捨てがたいですが、ボディもありアルコールのヴォリュームも感じるとなればやはりバランス型のシャルドネをイメージです。
さて、このワイン、実は松岡さんがブラインドテイスティングを行ったときのコメントです。松岡さん自身のコメントはこうです。
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私は最初に酸やミネラルの印象からピュリニー・モンラッシェをイメージしました。
ソーヴィニヨン・ブランの特徴ととらえる緑っぽさがそれほど強調されておらず、硫黄っぽさを全く感じません。さらにサンセールにしては酸と果実味のバランスが果実の方によりすぎていると判断しました。
反対にシャブリのミネラルの感じというよりはピュリニーに近いものを感じたのですが、それでも、ピュリニー独特の縦に抜ける一本芯の通った強いミネラルの感じもないために悩みました。(ムルソーやシャサーニュのようなふくよかさや柔らかさではないため、シャルドネならシャブリかピュリニー・モンラッシェ以外考えられませんでした)
シャルドネ(ピュリニー・モンラッシェとシャブリ)とサンセールの特徴を天秤にかけて、最終的にピュリニー・モンラッシェの…、と解答としました。
結果はサンセール(ソーヴィニヨン・ブラン)。2015年というフランス全土がよい天候に恵まれた年のよく熟したソーヴィニヨン・ブランから造られた素晴らしいワインでした。→ちなみに生産者も私がソーヴィニヨン・ブランの中で最高だと思っているドメーヌ・ヴァシュロンでした。
持ち寄りのブラインド会ですから、持って来た人は騙してやろうと思っていたわけです。そして、その意図に違わず私はあっさり騙されました。
結果がわかった後にテイスティングすると、サンセールらしいグリーンのニュアンスもしっかり感じられ、シャルドネと間違えたことを悔やみました。しかし、それは私の中にあるソーヴィニヨン・ブラン/サンセールのイメージをこの目の前にある白ワインに投影した結果、より特徴的に感じてしまったというある意味錯覚でもあるのです。
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松岡さん自身がシャルドネを予想しているコメントですから、「シャルドネかなぁ」と思った方は品種の特徴がまず頭で理解できている証拠です。ですが、このように現実はそう簡単にはいきません。世界にはたくさんのワインがあるんです。ブドウ品種にこだわりすぎず、まずは主要品種に絞って取り組む意味を感じていただけたのではないでしょうか。
そして、先入観のある、なしで感じることも違うということがよくわかります。このこともしっかり理解しておいて下さい。→メルマガの3つ目のトレーニングの意味がここにあります。
いかがでしたでしょうか。
目の前にあるワインがご自身の基準においてどのレベルにあるのかということを常に意識しながら繰り返しテイスティングすることで、徐々にワインがわかるようになってきます。