ボルドーの基本 <B>

第11回
今日1月17日は阪神・淡路大震災から26年目にあたります。震災当時、私は兵庫県西宮市に祖母と伯父達と住んでいました。
朝6時前、ドーンというものすごい音と共に体が突き上げられ投げ出されたように思います。その一瞬、夢か幻かと思うほど歪んだ空間が目の前に広がり、その後、全てが暗闇へと吸い込まれていきました。
あの日、私は偶然夜通しドラクエをしながら朝まで起きていました。初めて経験するほどのカオスの中、二階の窓から外に逃げ出すと、なんとそこには道路があるではありませんか!自宅が倒壊し、二階が一階になっていたのです。しばらく呆然と立ち尽くしたように思いますが、はっきりと覚えていません。
そのうち近所の人々も命からがら外に出てきました。倒壊したのは私の家だけでなく、無事に残っている建物を探す方が早い感じで、一帯がまさに戦後の焼け野原のような光景でした(火事にならなかったのは不幸中の幸いでした)。
しばらくして一階で寝ていた祖母がまだ逃げ出していないことに気がつきました。なんとか助け出さなくてはなりません。しかし、助けを呼べるような状況ではなく、誰もが自分の家、家族のことで精一杯です。家を解体した経験も道具もない状態でしたが、同居の伯父さん達とともに倒壊した家屋から祖母を掘り起こし、引きずりだしたのは最初の地震が起きてから5時間が過ぎた頃でした。この日は特別寒い朝でした。
本当に必死でした。それでも、やればできるものです。
祖母はその後しばらくは比較的元気に暮らしましたが、やはり自分の家がなくなったこともあるのか、日に日に衰えていったように思えました。そして、地震から約二年後に亡くなりました。
インフラに関しては電気が二週間ほどで回復しましたが、水道とガスの復旧には数ヶ月を要しました。我が家は全壊で家がないためそれどころではないのですが、あたり一帯全ての水道とガスが完全に止まっているのです。なんでも当たり前にある生活では想像もつかない困難に度々遭遇しました。
この時、この場所には現代日本の姿が全くありませんでした。
その後数ヶ月間、自宅の瓦礫を片付け、地域の炊き出しを手伝いました。そして、給水車から水を汲んで近所のお年寄りの家々に運び続けたものです(私はこの地震のため退職しました)。
悲惨な状況ではありましたが、このときの地域の人々の連帯感、助け合いの心、そして何よりも前向きに頑張ろうという強い気持ちが復興につながったのだと思っています。人間の強さややさしさについてこれほどまでに真剣に考え、そして感じたことは後にも先にもこの時期だけかも知れません。
2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震が記憶に新しいところです。今なお仮設住宅にいらっしゃる方をはじめ、不自由な暮らしを余儀なくされている方々がいらっしゃることに心を痛めております。また、原発のことなど問題も山積みです。それでも、意思のあるところには必ず道が開けるはずです。一日も早い復興と被災された皆さまのお幸せをお祈りいたします。
ーーー
さて、今日から試験対策講座らしいことを始めます。表題通り「ボルドー」からです。
2014年の教本より”日本”の項目が一番最初に記載されるようになり、さらに2018年から始まったCBT試験においては「あんなに覚えたボルドーの格付けが一問も出なかった~」という声も聞こえてきております。→ただ、ボルドーは意外と出題されております。もちろん、CBT方式の出題はランダムなので、せっかく覚えても出題されないこともあるのですが。
この時期はまだ今年度のソムリエ教本が発行されておりません。ただ、フランスの項目はAOCやワイン法の変更が圧倒的に少ないことからも、比較的ソムリエ教本に頼らずに勉強できるんです。
時代は移ろい一次試験がCBT方式になり、いまだボルドーの格付けから勉強するのかという思いがないわけではありません。それでも、やっぱりこの格付けを覚えることがソムリエ試験対策らしいと思うわけで、ここを最初に超えることでソムリエ試験対策に対する一つの覚悟ができるのではと思うのです。
このような理由もあり、この講座ではフランスの項目から一次試験対策を始めます。
※冒頭の写真は、仮装して所々でワインを飲みながら走るメドックマラソンの光景です。
この講座のテーマです。
明日ではなく、今日少しだけでも頑張りましょう。疲れているのは皆同じです!
ボルドーの基本 <B>
ボルドーの語源は「水のほとり(au bord de l’eau)」、港町として栄えたこともあり、大きく蛇行したその形状から「月の港」と呼ばれていました。→「ボルドー市街地区」が2007年にユネスコの世界遺産に登録されました。ちなみに、「サンテミリオン管轄区」は1999年に世界遺産。<18、20>
目次
ボルドーに流れる三つの川と大まかなイメージ
ボルドー市は北緯45度、北海道と同じ緯度ですが、大西洋沿岸を流れる暖かなメキシコ湾流<18><21>の影響で穏やかな海洋性気候です。
これからあげる三つの川の流れを理解するところから始めましょう。
地図を見ながら大まかにイメージしてくださいね。
・上流の森林地帯から長年やわらかい土を運んできたドルドーニュ川。
→やわらかい土が堆積し、石灰粘土質土壌を形成しました。
・スペインとの国境に連なるピレネー山脈から固い岩盤のかけらを運び続けたガロンヌ川。
→固い岩盤が石となり流されて削られて、どんどん小さくなって砂利になりました。
・二つの川がボルドー市の北部で合流しジロンド川となり大西洋に注いでいます。
→土と石のどちらもさらに下流まで運ばれましたが、粒子の小さな土はより下に沈みます。ですから、ジロンド川左岸地域も表土は砂利が基本です。
以上より、ドルドーニュ川流域には粘土(やわらかい土)の土壌が広がり、表土の温度が低く保水性が高い粘土質土壌に適したメルロ種が多く栽培されています。
一方で、ガロンヌ川流域の砂利の土壌は水捌けがよく、砂利が熱を蓄えます。ここではこの土壌に適した晩熟型のカベルネ・ソーヴィニヨン種が主に栽培されています。
ジロンド川流域にはこの二つの川によって運ばれたやわらかい土と砂利が合わさり堆積しています。ただ、表土の砂利の特徴がより強く見られるためこちらでもカベルネ・ソーヴィニヨン種が主に栽培されています。
【ボルドー攻略のためのポイント】
・ボルドーの地図とAOC
まず、大まかに地図を思い浮かべられるようになりましょう。ボルドーに限らず近年は地図を使った問題が増えています。AOCはボチボチ暗記です。
・メドックをはじめとする格付け
ここが最初の難関です。言い換えればここを乗り切れば少し先が見えるということです。大丈夫、あなただけでなく誰もがまずここで苦労します。
ですから、今はぼんやり、なんとなく覚えればよいでしょう。で、どうしても駄目な方は今はあきらめることも一つの選択です。ここでつまづいて先に進めなければなんにもなりません。時間を作ってまた戻って来ればよいだけです。もしくは、出題傾向を鑑みてサラッとながすことも一つの考え方だと思います。
各生産地域の栽培面積や生産量などの数字は一通り試験対策を終えた後に、他の産地と比較しながら暗記しましょう。ある程度産地のイメージが頭に入った方がわかりやすいと思います。→こちらはいつか、国別・フランスは産地別にまとめます。
さて、始めます。
A ボルドーの地図
冒頭でもふれましたが三つの川がとても重要です。ですから、ボルドーの地図をもう一度。
地図上のAOC名の前の”●”は生産が認められているワインの色を表しております。
●は赤ワイン、●は辛口白ワイン、●は甘口白ワインです。
例えば、●●Pessac-LeognanはAOC Pessac-Leognanとして赤ワインと白ワインの両方の生産が認められていると言う意味です。●●Blaye Cotes de Bordeaux<21>も同じです。
逆に、●Entre-Deux-MersはAOC Entre-Deux-Mers<21>として辛口白ワインしか生産が認められていないということになります。
また、右岸か左岸かという言い回しで問われます。
※右岸、左岸とは川の上流から見てどちら側かということです。
最初は下線を引いたAOCが地図上でどこにあるのかを答えられるように、そして生産可能色(白ワインか赤ワインかなど)までしっかりと覚えてください。これが基本です。特に覚えづらいところですが、Sauternes近辺のAOCが川のどちらにあるのか、どの順番で並んでいるのかをよく確認してください。
最近では、Bordeauxで最も東のAOCは? といった問われ方をすることもあります。<21>
その他、ボルドー概要
ボルドー大学醸造学部はフランスのブドウ栽培学、ワイン醸造学のシンクタンクであり、最先端の研究が行われています。
ボルドーの気候は大西洋を流れる温暖なメキシコ湾流<18><20><21>の影響により、穏やかな海洋性気候。
アメリン&ウィンクラー博士によるワイン産地の気候区分はREGIONⅡ<20><21>。緯度は北海道と同じ北緯45度。
大西洋とブドウ畑の間には広大な松林(ランド)の森が広がり、海風からブドウを守っています。<18>
B ボルドーのAOC
メドック地区
ボルドー左岸ともいわれ、すべて赤ワイン、カベルネ・ソーヴィニョンが主体です。→たとばCh.Margauxは有名な白ワインを造っていますがAOCはBordeauxです。
・Medoc
・Haut-Medoc
・Saint-Estephe
・Pauillac
・Saint-Julien
・Margaux
・Moulis
・Listrac Medoc
グラーヴ地区
黒ブドウはカベルネ・ソーヴィニョン、白ブドウはソーヴィニョン・ブラン、セミヨンが主体です。→こちらは格付けも含めいろいろと注意が必要です。
・Pessac-Leognan
・Graves
ともに白ワイン・赤ワインの生産が可能→Pessac-Leognanは1987年にGravesから独立したAOCです。<19>
・Graves Superieures が白半甘口のみ<20><21>。→Bordeaux Superieurは赤も可です。
※メドックやグラーヴの格付けは次回以降で勉強します。
<CBT 2021>でもメドック地区のAOCの位置を問う問題や地図問題が出題されていますので、地図は眺めておいて下さい。
サン・テミリオン、ポムロール地区
・Saint-Emilion
・Pomerol
・Fronsac
この系はすべて赤ワインです。→なんとかサンテミリオン、なんとかポムロールってたくさんありますが、ぜんぶ赤ワイン。まずはこれだけでいいでしょう。
ブドウはメルロ、カベルネ・フラン主体、カベルネ・ソーヴィニョンなどです。
※CBT方式になってからこのあたりの地味なAOCの場所も問われるようになりました。ということで地図を眺めてください。
ソーテルヌ地区
甘口白ワインの産地で、そのほとんどで貴腐ワインを産します。ブドウはセミヨン主体(補助品種ソーヴィニョン・ブラン)です。
→ボルドーの白ワインは辛口でソーヴィニョン・ブラン主体、甘口でセミヨン主体とおおむね主従関係が逆転します。
ガロンヌ川左岸
・Sauternes
・Barsac
・Cerons
ガロンヌ川右岸
・Sainte-Croix du Mont<18>
・Loupiac<20>
・Cadillac
※このようにフランスのワイン法ではAOCによってブドウ品種はもちろん、栽培法から醸造法、そして造られるワインのタイプまで明確な取り決めがなされています。
その他のボルドーのAOCに関しては今後、過去問等で出てきたものを一つ一つチェックする程度で十分です。なんといっても格付けの問題が伝統的に幅を利かせており、細かい各AOCの生産可能色等に関する問題はその次で大丈夫です。→2018年度以降のCBT方式の一次試験でも、変わらず格付け系の出題が見られます。
また、ここボルドーに関してはAOCごとにブドウ品種を細かく覚える必要はありません。
ひとまず今回はこれくらいで。
今後、ほぼ毎回【過去問】で確認を行います。一番大切なことは勉強した内容がどのような形で出題されたかを知ることです。全て勉強してから過去問・試験問題で力試しをするという考え方は基礎トレーニングばかりで実践形式での練習をしていないのと同様、あるいは、相手を研究せずにいきなり試合に出るようなもので全くお勧めできません。2018年度に始まったCBT方式の過去問、受験情報をもとにした想定問題も後の章で掲載いたします。
さて、もう一踏ん張りです。
ソムリエ試験 過去問
【過去問】
地図中のA〜Eの中からSauternesを示す所を次の中から1つ選び、解答欄に マークしてください。
【解説】
A~E全てどのAOCに該当する確認してください。CBT方式になってからEやDを問う出題が見られます。
【過去問】
次のA.O.C.の中でボルドー市街に最も近いものを1つ選び、解答欄にマークし てください。
1. Margaux
2. Moulis
3. Pomerol
4. Pessac-Leognan
【過去問】
次の A.O.C. ワインの中でボルドー地方のドルドーニュ川右岸に位置するものを 1 つ選び、解答欄にマークしてください。
1. Fronsac
2. Cadillac
3. Barsac
4. Entre-Deux-Mers
【過去問】
次の地図中 1 ~ 6 の中から(A)、(B)に該当する A.O.C. を 1 つ選んでください。
(A)Margaux
(B)Graves
【過去問】
ボルドー地方において、ジロンド河の最も上流に位置するA.O.C.を1つ選んでください。
1. Margaux
2. Saint-Estephe
3. Medoc
4. Pauillac
【解説】
地図のイメージが頭にあれば簡単な問題です。
【過去問】
次の1~5 の中からボルドー地方のドルドーニュ川とガロンヌ川の間の地域で生産される、辛口白ワインだけが認められているA.O.C.ワインを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。
1. Cadillac
2. Entre-deux-Mers
3. Sainte-Foy Bordeaux
4. Castillon-Cotes de Bordeaux
5. Sainte-Croix-du-Mont
【解説】
辛口白ワインのみのですよ。
【過去問】
次の 1-4 のボルドー地方のワイン産地の中からドルドーニュ川の右岸に位置するものを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。
1. Sainte-Foy Bordeaux
2. Castillon-Cotes de Bordeaux
3. Cadillac
4. Sainte-Croix-du-Mont
【過去問】
下記の地図A~Dの中からA.O.C. Barsacの場所を1つ選んでください。
【過去問】
次のボルドー地方の A.O.C.ワインの中から赤ワインだけが認められているA.O.C.ワインを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。
1. Graves
2. Ceron
3. Blaye
4. Pomerol
【解説】
あれっ、おかしいなと思った方、その通りです。でも、こうして悩んだりすることが記憶に残るのです。
【過去問】
次のボルドー地方の A.O.C.ワインの中から甘口白ワインだけが認められているものを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。
1. Loupiac
2. Premieres Cotes de Bordeaux
3. Sainte-Foy Bordeaux
4. Graves
【解説】
ここも一つ前と同じです。ソムリエ試験ってたまにこんなことがあるんです。
【過去問】
次のBordeaux 地方のA.O.C. の中から赤ワインだけの生産が認められているものを1つ選び、解答用紙の解答欄にマークしてください。
1. Entre-Deux-Mers-Haut-Benauge
2. Cotes de Bordeaux Saint-Macaire
3. Cotes de Bourg
4. Castillon-Cotes de Bordeaux
【過去問】
次のボルドー地方の地図のA~Dの中でPessac -Leognan地区を示している場所を1つ選んでください。
【過去問】
次のボルドー地方のA.O.C.の中から赤だけの生産が認められているものを1つ選んでください。
1. Graves Superieures
2. Loupiac
3. Blaye
4. Bordeaux-Haut-Benauge
【過去問】
次のボルドー地方のA.O.C.の中から赤・白ともに生産が認められているものを1つ選んでください。
1. Entre-Deux-Mers
2. Fronsac
3. Graves Superieures
4. Cotes de Bourg
【シニア過去問】
次の中からボルドー地方が属する県名に該当するものを1つ選んでください。
1. Garonne
2. Gironde
3. Dordogne
4. Medoc
【解説】
シニアの問題ですが、これも何となく頭の片隅にあればいいなぁという感じです。教本にもしっかり出ていますよ。
ワイン法やワイン市場も年々変化するため、過去の問題の模範解答が現在も正解であるとは言い切れない場合があります。反対に言えばこのようなポイントが出題されやすいとも言えます。気をつけましょう。
次回は誰もが苦労するメドックの格付けに進みます。
お疲れ様でした。本当に疲れたと思います。ボチボチやりましょう。誰も一度では覚えられません。コツコツ頑張った人が最後に笑います。
何かございましたらこちらまで
info★majime2.com 松岡 正浩